「先駆ける人」
2021年 07月 05日
愛知県美浜町に「音吉、久吉、岩吉」という名前が刻まれた記念碑があります。この3人は、今から約190年前の1832年、江戸へ米を運ぶ途中、遭難した船の乗組員たちです。彼らは1年2か月も漂流した後、アメリカ、イギリス、マカオを経てモリソン号という船でようやく日本に戻れたのですが、しかし、なつかしい故国日本は、鎖国のために彼らを大砲で追い返してしまったのです。歴史の波に翻弄されながらも、しかしこの3人はマカオでキリスト教の宣教師の手伝いをして聖書を日本語に翻訳する仕事をしたり、他の漂流民を助けたり、音吉はイギリスに帰化して、日英和親条約の交渉に当たってイギリス側の通訳として来日を果たしています。
あのモリソン号事件をきっかけに、日本は急速に開国に向かうことになりました。美浜町では今、国際社会のいわば先駆けになった、そういう郷土の船乗りを「先駆的な国際人」として紹介し、名古屋の劇団は「にっぽん音吉物語」を各地で上演し、イギリスにも渡り、交流を深めたそうです。音吉たちは、はからずも当時の日本に、今日では当たり前になっている世界、新しい時代があることを示す役割を担うことになりました。鎖国の日本に、世界を突き付けた。閉じこもって、大砲で追い返すような日本に対して、新しい時代の先駆けになったのです。
さて、イエス・キリストは「神の国が近づいた」と言います。命を十字架に差し出してまで、閉じこもる私たちにもう一つの世界、新しい時代を見せてくれました。キリストは忍耐をもってかたくなな私たちの扉をたたき、見えていることとは違うもう一つの世界が、今あなたに始まる、と言うのです。私たちは、神の国、新しい時代に生きていなかった者だということに、キリストの招きによって気づいたのです。音吉たちは「国際人の先駆け」であったと後の世の人が言うなら、私たちはキリストによって「神の国の先駆け」に招かれました。この時を見分け、神の国を先駆ける者として、確信と信頼をもって、今を、生きようではありませんか。