「多くを得るということは、多くを失うこと」

旧東海道ウオークで、静岡を過ぎると、道の見当がまったくつかなくなる。初めて聞く地名ばかりだ。なので、これから歩く道を調べるのだが、実は、結構それだけでも楽しい。本を読んで道を確認、そこで、歴史にも触れる。ネットの地図では、写真まで表示されるから、山間なのか、家があるのか、どういう地域なのか、行く前から、よくわかる。冒険心をくすぐられる。
ところで、旧東海道は、国道1号線を入ったり出たりしている。地図上にはいくつかの「直線」が引かれているが、まず一番が新幹線で、次に東名高速、東海道線、そして国道1号線だ。そういう直線が延びている。その陰に隠れて、旧東海道が国道を入ったり出たりしているのだ。いや、もともとは、この街道しかなかったのだ。街道は山を避け、谷を避け、くねくねと延びていた。しかし、やがて道も、また、新たに敷かれた鉄道も、どんどん直線化していったのだ。今では、最初の、あの「くねくね道」を見付けるのに、苦労する所も多くなった。
歴史、人の動きは、「真直ぐ」な方に動く。少しでも速い方に、動いてきたのだ。そして、最初の道は、忘れ去られる。くねくね曲がったもの、遅い道(もの)は、忘れ去られていく…
しかし、旧東海道を歩きながら発見するのは、そこに生きた人々であり、そこに生み出された歴史である。直線と、速さの中では、決して見ることのない、生活の営みが、そこに見えてくる。
旅でおせわになっている、岡本永義著『歩いて見て楽しむ 平成東海道五十三次』の最後にある言葉は、次のようになっている。

「東海道が敷設されて400年。人は文明を発展させ、便利な世の中にすることで多くのものを手に入れた。しかし、私はこの旅を終えて気がついた。多くのものを得るということは、同時に多くのものを失うということではあるまいか。旧東海道を歩いていると、実に多くのものが目に飛び込んでくる。古い家並み、一里塚、道端の石仏、道祖神。しかし新幹線に乗る、または自動車で走りすぎると、これらのものは一切視界の外である。さらには、これらの鉄道を通す、自動車用の道路を敷くのは、これら多くのものを押し潰すことによってしか、なしえないのだ。新たなものを得るために、人は便利さを追及した。しかしこれは、多くのものを失った上に成り立っているのである。この旧東海道のひとり旅で、私は様々な知識を得たが、たとえそれらの知識を得ることがなくとも、この一事に気づいただけでも大きな収穫である。私は今後も、文明社会の中を生きていくことになるだろう。これからも発展は続き、便利さは増していくことであろう。私たちは、この便利さによって多くのものを得たとき、同時に多くのものを失っているかも知れないことに、心をめぐらすべきであろう。」

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Commented by 岡本永義 at 2009-10-09 00:13 x
はじめまして。
岡本永義です。
私の拙い本をご覧いただきましてありがとうございます。

> 「多くを得るということは、多くを失うこと」
自分で言ったことながら、他の方に言っていただきますと
その言葉の重さが胸にしみます。

ありがとうございました。
今後もよろしくお願いします。
Commented by ushioda at 2009-10-09 18:41 x
あ、岡本さん! ついに出会えました! 感激です。
東海道では、本当にお世話になっています。
他に多くの東海道ガイドブックがありますが、こんな詳しく、そして、ところどころにジョークが入っている楽しい本は、ほかにありません。
歩くことで、本当に大事なことに気づかせられますが、岡本さんが最後に書かれていたことは、そういう私の心に、特に響いた言葉でした。
良い本を出していただいて、有難うございます。
ところで、京都の帰りは中山道を考えています。中仙道の本はお書きになっていますか?



Commented by 岡本永義 at 2009-10-11 23:41 x
こんにちは。

「歩いて見て楽しむ平成東海道五十三次」は私の処女作でして、
処女作といっても、2作目以降はまだ出版しておりませんので、
申し訳ありませんが、中山道の本はありません。

代わりにと言っては何ですが、私のサイトに中山道のページがあります。
URLから入って、「平成中山道六十九次ひとり旅」をクリックしてください。
ただし、残念ながら、このページには地図がありません。

私は、学研から出版された「中山道の歩き方」全5巻を
ガイドとして使いましたが、本をそのまま持って行ったのではなく、
インターネットの地図を印刷して、そこに旧街道を赤線で引いて
見どころを書き込んだ上で持って行きました。

これでしたら、自分の感じたことなどを書き込むことができて便利です。
Commented by ushioda at 2009-10-12 08:46 x
有難うございます。
まだ先のことなので、よく調べもせず、お尋ねしました。

「平成中山道六十九次ひとり旅」、見つけました。ぜひ、参考にさせていただきます。京都からのコースと言うのが、うれしいですね。たまたま本屋で見つけた本は、やはり東京発でした。街道ガイドと言うと、そういうものが多いのかなと思います。
と言っても、今のペースでいくと、京都に到達するのは、再来年の5月頃の予定です。「生きてるうちに京都に着けたら」とか言って東海道を歩き始めたら、意外と歩けるもので、私のペースでは4年で着けそうです。

そのあと、中山道です。江戸を目指しますが、遠いところに、しかし到達できないほどのものではないところに目標を置く。その時間軸が、意外と生活スケールになるものだと実感しています。

楽しみです。
by rev_ushioda | 2008-09-09 23:01 | Comments(4)